大阪地方裁判所 昭和43年(行ク)9号 決定 1968年6月14日
申立人
佐々木宗一
右申立代理人
菅原昌人
ほか七名
被申立人
大阪府東警察署長
右訴訟代理人
道工隆三
ほか三名
右指定代理人(検事)
広木重喜
ほか六名
主文
申立人の昭和四三年五月二七日付大阪公安委員会に対するベトナム反戦全国行動大集会集団示威行進(同年六月一五日実施予定)許可申請に対し、被申立人が同年六月一〇日付でなした許可に付した条件のうち、通行区分につきなした「本町四丁目交差点から道頓堀橋南詰までは、西側歩道を行進すること」との条件の効力はこれを停止する。
申立費用は被申立人の負担とする。
理由
一申立の趣旨および理由は別紙一に記載のとおりであり、これに対する被申立人の意見は別紙二に記載のとおりである。
二当裁判所の判断
(1) 本件申立ならびに疎明によれば申立人は、ベトナム反戦全国行動大阪実行委員会の代表委員として、ベトナム反戦等を広く国民各層に訴えるため、昭和四三年六月一五日一八時三〇分から二〇時までの間大阪市内の大手前公園――馬場町交差点――本町四丁目交差点から御堂筋を南行して難波球場前に至るコースで、右実行委員会の各参加団体の所属員(参加予定人員約三、五〇〇名)を中心として集団示威行進を行うべく、昭和四三年五月二七日大阪府公安委員会に対し、疏甲第一号証の一(集団行進等許可申請書)のとおり右集団示威行進の許可を申請したこと、被申立人が、昭和四三年六月一〇日、右申請に対し、右公安委員会の集団示威行進の許可(疏甲第一号証の二)とならんで、集団行進に伴う道路の使用につき疏甲第一号証の三(被申立人の許可書)記載の各条件(右の中には、主文第一項掲記の通行区分につき、車道の右側端に寄つて通行すべきところを、西側歩道を行進すべきことに一部変更する条件を含んでいる。)を付してこれを許可する旨決定したことが認められる。
右の事実関係のもとにおいては、集団示威行進の本質にかんがみ、本件執行停止の申立ては、処分により生ずる回復の困難な損害を避けるため緊急の必要があるものと認めるのが相当である。
尚被申立人は本件許可処分は行進の経路を変更するものでなく、一般交通の安全、行進参加者に生じ得べき交通上の危険防止の配慮をするものであり、本件許可処分に従つて行進することにより、その目的を達成するについて格別の支障があるとは到底認められないから、本件許可条件の効力の停止を求めるにつき何等の緊急の必要性がないと主張するけれども、右主張は結局のところ、許可処分の内容の相当性を言うにすぎないものであつて、停止の緊急性の存否に関するものではないから採用の限りでない。
(2) 被申立人は、本案につき、本件許可処分に付随し、これと一体不可分の関係にある付款のみを対象とする訴は、不適法であると主張する。しかしながら、右付款が行政行為の重要な要素でなく、その付款に無効又は取消の原因たる瑕疵があるときは、その付款のみの取消を求めることが許されるものと解するを相当とするところ、本件争訟の対象たる付款は、集団示威行進の許否に直接関するものではなく、道路の通行方法に関する変更にすぎないから、行政行為の重要な要素とはなし難く、従つて、右付款に前記のような瑕疵のあるときは、その取消を求めうるものであるから、被申立人の右主張は理由がない。
(3) 次に被申立人は、行政行為の付款のみの執行停上を求めることは、裁判所が行政庁に代つて付款のない新たな行政行為をしたに等しい効果を創出するから、三権分立の建前上許されないと主張するが、前記のとおり行政行為の付款が行政行為の重要な要素でない場合は、その取消を求める訴訟が許されるのであるから、右付款の効力の停止を求めることも当然許されるものと解すべきである。従つて、被申立人の右主張も失当である。
(4) ところで、道路交通法一一条、同法施行令八条二号によれば、旗、のぼり等を携帯し、かつ、これらによつて気勢を張る行列(百人未満のものを除く)は、歩道と車道の区別のある道路においては、車道をその右側端によつて通行しなければならない旨定められており、又同法七七条一項四号、大阪府道路交通規則(昭和三五年大阪府公安委員会規則九号)一五条三号によれば、集団示威行進のため、道路を使用する場合は、所轄警察署長の許可を受けなければならず、且つ、その許可をする場合において必要あると認めるときは所轄警察署長は当該許可に道路における危険を防止し、その他交通の安全と円滑を図るため必要な条件を付することが出来ると定められている。
被申立人は集団示威行進等道路交通法七七条一項四号の許可にかかる行為は、同法一一条が規制の対象とする単なる道路通行としてではなく、道路使用行為として観念されるものであつて、同法第二章、第三章で規定する歩行者の通行方法、車両等の交通方法に関する一般規定の適用は排除される旨主張するが、同法七七条一項四号にもとずく許可は、本来の道路の目的である道路の通行以外の用途を含む通行の形態等に於ける使用に対する許可であるけれども、右の場合でも、道路の通行については、当然同法第二章、第三章所定の通行又は交通方法が排除されるものではなく、かつ、同法七七条三項によつて警察署長の付すべき条件は、道路における危険を防止し、その他交通の安全と円滑を図るため必要な場合に限られるものであるから、右の必要のない場合は、これを付することは許されないものと解すべきである。
更に、被申立人は、本町四丁目交差点から道頓堀橋南詰までの所謂御堂筋(歩道と車道の区別のあることは公知の事実である。)は、同橋南詰より難波西口交差点までの間と比較して疾行車道はあまり変らないが、緩行車道やや車両の通行が少なく、又前者の区間は歩道に沿つてビル街である関係上、本件行進の実施時間帯には殆んど歩行者もない状況から、右区間の全利用者の安全と円滑を図るべく、本件許可条件が最も適切、合理的である等と主張するけれども、被申立人の疏明によれば、本件条件を付された区間は後者の区間と比較して本件行進の実施の時間帯においては、歩行者の数がやや少ないことが認められなくもないが、緩行車道の車両の通行量は殆んど大差ないことが認められ、その他に右両区間の通行方法を区別すべき特段の事情は本件の全疏明をもつてしてもこれを認めることはできないから、被申立人の付した本件許可条件は道路における危険を防止し、その他交通の安全と円滑を図るため必要であるとは云えず、むしろ、歩道上を通行させることによつて歩行者の通行を妨害することとなり、その安全と円滑を図るものということはできないから、法律の適用を誤つたものといわなければならない。
(5) 尚、集団示威行進の基礎である表現の自由は、憲法により保障された国民の基本的人権であつて、しかも、民主政治実現のため極めて重要な手段であるから、公共の福祉に反しないかぎり、みだりに制限されるべきものではなく、本件においては、前記のとおり道路交通法の運用を誤り、不必要な条件を付して表現の自由を制約した許されざる場合ともいうべきである。
三以上の理由により、許可処分に付された条件の効力の停止を求める本件申立は正当として認容し、(従つて、本件区間の行進は、道路交通法一一条一項により車道をその右側端により通行すべきこととなる)、申立費用の負担につき、民事訴訟法八九条を適用して主文のとおり決定する。(石崎甚八 仲江利政 光辻敦馬)
申立の趣旨
申立人の許可申請にかかる昭和四三年六月一五日実施のベトナム反戦全国行動大阪集会集団行進について、被申立人が昭和四三年六月一〇日付でした条件付許可処分の許可条件のうち、通行区分につきなした「本町四丁目交叉点から道頓堀南詰までは、西側歩道を行進すること」との条件の効力はこれを停止する。
申立費用は被申立人の負担とする。
との決定を求める。
申立の理由
一、申立人は大阪総評常幹であるが、昭和四三年五月二七日、大阪府公安委員会に対し、昭和四三年六月一五日実施のベトナム反戦全国行動大阪集会集団行進(申請内容は別紙(一)申請書のとおり)につき許可申請書を提出したところ、実に十数日を経過した六月一日に至り、大阪府公安委員会において別紙(二)集団示威運動(行進)に伴なう許可条件を被申立人において別紙(三)集団示威行進に伴なう道路使用許可条件を付して各許可処分をなしてきた。
二、しかしながら、被申立人において道路交通法七七条三項により付してきた別紙(三)集団示威行進に伴なう道路使用許可条件のうち、通行区分につきなした「本町四丁目交叉点から道頓堀南詰までは、西側歩道を行進すること」との条件は申立人の意思に反してなされた違法な処分である。すなわち、申立人は本件許可申請後府警本部警備部との窓口接渉のさい、再三、歩道を行進の通行区分とすることは、集団示威行進の本来の形態を歪め、正当な示威の機能を著しく減殺するものであり、又御堂筋における交通状況からみて合理性を欠くものであることを強く指摘したものであるが、被申立人において申立人側の意思に反してこれを付与してきたものである。
本許可条件の違法性の根拠は左記のとおりである。
(一) 集団行進の通行方法について、道路交通法一一条一項は、行列および歩行者の通行を妨げるおそれのある者で政令で定めるものは、歩道と車道の区別のある道路においては、車道をその右側端に寄つて通行しなければならないと定め、同法施行令八条は右政令で定めるものに、旗、のぼり等を携帯し、かつ、これらによつて気勢を張る行為(百人未満のものは除く)を含めている。
本件集団行進のごとき集団示威行進は右施行令八条の行為に含められることは極めて明らかであるから、結局本件集団行進は道路交通法一一条一項にもとづき歩車道の区別のある道路においては車道をその右側端に寄つて通行すべきものであり、右の違反に対しては同法一二一条一項二号により指揮者に対し一万円以下の罰金又は科料の罰則が定められているのである。
道路交通法一一条一項は疑いもなく一般市民が歩道を自由に通行する権利を保障したものである。同条項は「学生生徒の隊列、葬列その他の行列及び歩行者の通行を妨げるおそれのある者で政令で定めるもの」に関する規定であるが、同政令で定められているのは、一、銃砲を携帯した自衛隊の行列(百人未満のものを除く)、二、旗、のぼり等を携帯し、かつ、これらによつて気勢を張る行列(百人未満のものを除く)、三、象、きりんその他大きな動物をひいている者又はその者の参加する行列の三つであつて、いずれもその歩道上の行進によつて、歩道を歩く一般市民に危害を加えるか、威圧を加えてその自由な通行を困難ならしめる場合を規定している。集団示威行進は、多人数であるという事実ならびにそれが帯有する示威的機能によつて一般通行人の通行を困難にしたり、多少の威圧感を加えることを避けることができない。けだしこれは多衆示威運動の本質的要素だからである。道路交通法一一条一項が集団示威行進につきその通行方法をとくに限定したのは合理的根拠をもつものである。
道路交通法一一条一項によれば、本件集団行進は歩道上を行進することを禁止せられる。そして後述のとおり右禁止を解除すべき合理的根拠は何もなく、又、右禁止は道路交通法七七条三項の道路使用許可条件によつて解除することはできない。
本件許可条件の根拠である道路交通法七七条三項は所轄警察署長に対し、「道路における危険を防止し、その他交通の安全と円滑を図るため必要な条件を付する」権限を規定している。ところで本件許可条件である歩道を通行区分とするとの処分は、右許可条件付与の要件である危険防止と真向から背反するのである。歩道は一般市民の自由な通行に通行に供せらねばならない。一般市民の平穏な通行の場である歩道を集団行進によつて埋めることを、事もあろうに危険防止のための道路使用許可条件に含めるごときは一般市民の自由な通行権を無視することに外ならない。道路交通法一一条の行列の車道行進義務は、社会的にこれを行なうことが行為者の権利であるか、やむをえないものである場合(道交法七七条二項三号参照)においてそれが車両の運行に障害を与えることがあつても一般歩行者の通行に障害となることを許容しないという市民権の保障の精神に立脚している。
本件の集団行進に対する本件許可条件は、御堂筋における交通状況からして決して合理的ではない。なぜなら本件許可条件の通行区分によれば本町四丁目交叉点から道頓堀南詰までは西側歩道であるが、道頓堀橋南詰から新歌舞伎座南端前までは西側緩行車道の右側端、新歌舞伎座南端前から難波西口交叉点までは車道の右側端と定められているところ、歩道区間とされている本町四丁目交叉点から道頓堀南詰までが、道頓堀南詰より難波西口交叉点までより車道の交通量が多いということはなく、むしろ逆であつて、道頓堀南詰以南の方が車道の交通量が多いか、もしくは同一であると考えられるからである。しかも集団行進が本町四丁目より道頓堀南詰に至る時間は比較的短時間であつて、本件集団行進が道頓堀南詰に至るまでの間右側緩行車道を行進したとしても御堂筋における全体としての車両の通行状態に些かも不利を与えることはない。又、道頓堀南詰以南においてのみ緩行車道の通行を認め、それ以北についてのみ緩行車道の通行を禁止する合理的根拠はない。結局、歩道通行に関する本件許可条件は道路交通法七七条三項の条件付与の要件を逸脱し、同法一一条一項の通行区分に違反する違法な処分である。
(二) 次に本件許可条件は、憲法二一条により保障せられている集団示威行進の方法による表現の自由を侵害するものである。そもそも集団行進は車道を通行するのが常識である。又、正当な示威要素は車道の通行によつて保障せられる。
なぜなら、集団行進はそれによつてその目的に対する一般市民の共感を呼びかけることを要素とし、その点に表現の自由としての本質がある。市民への呼びかけが有効に行なわれえないような形態における集団行進を強制することは道路交通法七七条三項による許可条件をもつてしてもなしえないものである。
ところで歩道通行を強制することは右の意味における市民への呼びかけと市民の集団行進への自由な参加と共鳴を不可能ならしめる結果となる。けだし一般市民の歩道の占有と自由な通行が保障されない状態で一般市民への共感を求めることは不可能だからである。デモ参加者の常識としてデモは車道を行進すべきものという規範意識が存在することは右の点から説明しうるところである。
結局本件許可条件は、本件集団行進につき一般市民の共感を呼びかける正当な示威活動という表現の自由を著しく侵害するものであり違法である。
三、右の理由から申立人は本日御庁に歩道通行に関する本件許可条件の取消の本訴を提起したが、本集団行進の実施日時は切迫しており、本案訴訟の確定をまつていては所期の集団行進を実施することはできず、回復困難な損害を蒙ることは明らかであり、執行停止を申立てる緊急の必要がある。しかも本執行停止によつて公共の福祉に重大な影響を及ぼすおそれは些かもない。デモにおける無用の混乱を回避し、それが秩序正しく行なわれることを保障するためにも本執行停止は不可欠である。貴庁の勇断を強く希望する次第である。
疎明方法
一、疎甲第一号証の一ないし三
二、疎甲第二ないし四号証
○疎甲第一号証の一
集団行進等許可申請書
大阪府公安委員会殿
昭和四三年五月二七日
住所 大阪市北区高垣町七〇PLP会館
申請者 役職 大阪総評常幹
氏名 佐々木宗一
目的、名称 ベトナム反戦全国行動大阪集会・デモ
実施日時 六月一五日、
集合 一七時〇〇分
出発 一八時三〇分
解散 二〇時〇〇分
集合場所 大手前公園(教育塔前広場)
行進経路 大手前南側東口―馬場町―谷町三丁目―本町四丁目―御堂筋南行―ナンバ球場流れ解散
主催者 ベトナム反戦全国行動大阪実行委員会
参加団体 大阪総評、大阪軍縮協、全大阪反戦青年委員会、関西べ平連、大阪府学連、社会党、その他民主団体
参加予定 人員 三、五〇〇名
責任者 住所、大阪市北区高垣町七〇
PLP会館
役職、大阪総評常幹
氏名、佐々木宗一
指揮者(現場責任者)
総指揮者 住所、大阪市北区高垣町七〇
PLP会館
役職、大阪総評常幹
氏名、佐々木宗一
副指揮者 住所、大阪市北区高垣町七〇
PLP会館
役職、全大阪反戦青年委事務局長
氏名、鍵山伊三雄
住所、大阪市北区高垣町七〇
PLP会館役職、大阪軍縮協事務局次長
氏名、和田長久
住所、大阪市南区横堀七―二〇
南商工ビル
役職、関西べ平連
氏名、木村満彦
○疎甲第一号証の二
大阪府公安委員会指令(警備)第三二〇号
申請者 大阪市北区高垣町七〇
PLP会館
大阪総評常幹
佐々木宗一
昭和四三年五月二七日付申請のあつた集団示威運動(行進)は、別紙第一の条件を付して許可する。
昭和四三年六月一〇日
大阪府公安委員会
この処分については、大阪府公安委員会に対して、処分があつたことを知つた日の翌日から起算して六〇日以内に、行政不服審査法(昭和三七年法律第一六〇号)による不服申立て)異議申立てをすることができる。
○疎甲第一号証の三
大阪府東警察署指令(交通)第一三六六号
申請者 大阪市北区高垣町七〇
PLP会館
大阪総評常幹
佐々木宗一
昭和四三年五月二七日付申請のあつた集団行進に伴なう道路の使用は、別紙第二の条件を付けて許可する。
昭和四三年六月一〇日
大阪府東警察署長
この処分については、大阪府公安委員会に対して、処分があつたことを知つた日の翌日から起算して六〇日以内に、行政不服審査法(昭和三七年法律第一六〇号)による不服申立て(審査請求)をすることができる。
○別紙第一
集団示威運動(行進)に伴なう許可条件
1 行進は平穏に秩序正しく行ない、ジグザグ行進、渦巻行進、おそ足行進やことさらな停滞、坐り込みあるいはいわゆるフランス式デモなど、一般公衆に対し、迷惑を及ぼすような行為をしないこと。
2 こん棒、竹棒、石などを携帯して参加しないこと。また行進中旗竿、プラカードなどを支えにしてスクラムを組み、またはこれらを隊列外で振りまわすなど、一般公衆に対し危険を及ぼすような行為をしないこと。さらにたいまつなど裸火を使用しないこと。
3 行進経路を変更しないこと。また解散は指定の場所で到着順にすみやかに流れ解散すること。
4 主催者または現場責任者は、行進出発前に直接参加者全員に対し前各号の条件を繰り返し放送するなどの方法により周知徹底させること。
○別紙第一
集団示威行進に伴なう道路使用許可条件
1 行進は、四列縦隊で約二〇〇名で一隊をつくり、各隊の間は約五〇メートルあけること。
2 次の通行区分および方法により行進すること。
(1) 通行区分
ア、出発地から本町四丁目交差点までは、車道の左側端によつて行進すること。
イ、本町四丁目交差点から道頓堀橋南詰までは、西側歩道を行進すること。
ウ、道頓堀橋南詰から新歌舞伎座南端前までは、西側緩行車道の右側端によつて行進すること。
エ、新歌舞伎座南端前から難波西口交差点までは、車道の右側端によつて行進すること。
オ、難波西口交差点から解散地までは、車道の左側端によつて行進すること。
(2) 通行方法
新橋交差点は、同交差点北西角と南西角を結ぶ線の車道上を横断すること。
3 出発時刻、行進経路を変更しないこと。解散は指定の場所で到着順に流れ解散すること。
4 前各号の定めるもののほか、道路交通法の規定に従うこと。
5 主催者または現場責任者は、行進出発前に直接参加者全員に対し、前各号の条件を繰り返し放送するなどの方法により周知徹底させること。
○別紙二
第一 申立の趣旨に対する答弁
本件申立を却下する。
申立費用は申立人の負担とする。
との裁判を求める。
第二 申立の理由に対する答弁
一、申立の理由第一項は認める。
二、同第二項冒頭記載のうち申立人が本件許可申請後大阪警察本部警備部と窓口接渉したことは認めるが、その余は争う。
同(一)のうち、集団行進の通行方法については道路交通法一一条第一項、同法施行令第八条の規定があること。これら法令の規定の違反に対しては、申立人主張のような罰則のあることおよび集団示威行進が多人数による示威的機能を有するものであり、そのため一般通行人の通行を困難にしたり、威圧感を加えることを本質的要素とするものであることは認めるが、その余は争う。
同(二)は争う。
三、同第三項は争う。
第三 被申立人の主張
一、本件許可処分に至る経過
申立人は、昭和四三年五月二七日大阪府公安委員会に対し、申立書添付別紙(一)のとおり「行進及び集団示威運動に関する条例」(昭和二三年一〇月五日大阪市条例第七七号)にもとずく集団行進等の許可申請をしたので、同委員会は同年六月一〇日同別紙(二)のとおりその許可をしたのであるが、右申請にかかる集団行進(以下本件集団示威行進という)の出発地の所轄警察署長である被申立人は、右行進が道路交通法第七七条第一項第四号大阪府道路交通規則(昭和三五年一二月二〇日公安委員会規則第九号)第一五条第三号の適用を受くべきものであるので、同法第七七条第三項、第七八条第一項、同法施行規則第一〇条第一項、第三項にもとずき申立の趣旨記載の条件(以下本件許可条件という)を含む同別紙(三)の許可処分(以下本件許可処分という)をしたものである。
二、本案訴訟および本件申立は不適法なものである。
(1) 本案訴訟の不適法性
すでに述べたように被申立人は、申立人の昭和四三年五月二七日付集団行進等許可申請に対して、同年六月一〇日条件付許可処分を行なつた。
被申立人が付した本件許可条件を含む道路使用許可条件は、道路交通法第七七条第三項の規定にもとずき、道路における危険を防止し、交通の安全と円滑を図るため必要なものとして付したものであり、行政行為の付款であるから、主たる意思表示である許可処分に付随し、これと一体不可分の関係にあるものである。このように一体不可分の関係において付与された条件が違法であるとすれば行政処分そのものが違法になるのであるから、このような場合には付款の違法を理由としてその許可処分全体の取消を求める以外に方法はないのであつて、付款のみを処分から分離してこれのみを独立に争う訴えは許されないと言うべきである。
けだし、処分と一体不可分の付款のみを分離して取消訴訟の対象とすることは、それ自体背理であるのみならず、付款の違法を理由とする処分の取消判決があれば行政庁はその拘束を受けながら新たな行政処分を行なうことによつて申立人の救済目的は達せられるのであり、また、その方法によつてのみ行政と司法の調整をはかる行政事件訴訟法の趣旨に適合し得るものというべきだからである。
そうして、もし付款のみの取消の訴えが許され、しかもその取消判決により付款のみが失効して処分自体は存続すると解するとするならば、行政庁としては付款のない行政処分は未だ行なつていないのに裁判所が行政庁に代つて付款の付されない新たな行政処分をしたに等しい効果を認めることになり、このようなことが三権分立の建前上とうてい許されないことは明らかである。
とくに、いわゆる公安条例の許可制とは異なり、文字通りの許可処分である道路交通法第七七条の許可については条件を付し得ないとすれば、警察署長としては不許可処分としなければならない場合のあり得ることに留意すべきである。
したがつて、許可処分の付款たる条件自体につき、独立して取消を求める本案訴訟は不適法であるといわなければならない。
(2) 本件申立の不適法性
本件申立は、付款たる条件の一部である通行区分を歩道とする部分について、その効力の停止を独立に求めるのであるが、付款が違法な場合においても、付款のみを処分から分離してこれを独立に争うことの許されないことはすでに述べたとおりであり、このことは行政処分の執行停止においては、なお一層強い意味合いにおいていいうることである。
すなわち、裁判所は本案前の暫定措置としては、行政処分の効力、執行又は手続の続行を停止することだけが認められていて、それ以上の積極的な措置をとることは法律上認められていないのであるから、付款のみの効力停止により行政庁が付款のない行政処分をしたと等しい効果を創出しようとすることの許されないことはいうまでもないことである。
したがつて、裁判所に対して、被申立人に代つて無条件の許可処分をすることを求めるに等しい本件許可処分に付した通行区分を歩道とする条件の部分の効力停止を求める本件申立は、不適法な申立であるといわなければならない。
三、本件許可処分は、適法かつ妥当である。
(1) 道路交通法第一一条第一項と第七七条の関係について、
申立人は、集団示威行進の通行方法につき、道路交通法第一一条第一項、第一二一条第一項第二号および同法施行令第八条の各規定のあることを根拠として、本件集団示威行進も、右法令の適用をうくべきものであるから、同法第七七条第三項に基づく道路使用許可条件によつてもその適用が解除されるものではない旨主張される。
ししながら、本件集団示威行進等道路交通法第七七条第一項第四号に定める許可にかかる行為は、同法第一一条が規制の対象とする単なる道路通行としてではなく、道路使用行為として観念されるものであつて、その行為については少くとも、同法第二章、第三章で規定する歩行者の通行方法に関する一般規定、車両等の交通方法に関する一般規定の適用は排除されるものといわなければならない。
従つて同法第七七条に基づく道路使用の許可に際しては、当然のことながら当該許可にかかる行為の態様と当該行為の行なわれる道路の措置、形態、交通の状況等に応じて、道路における危険を防止しその他交通の安全と円滑をはかるため必要な条件を付すべきものであり、しかも同法第二章、第三章の規定の適用は排除される結果、これと異なる条件を付することができるのであるから申立人主張のように、同法第一一条の規定にいう車道右側端の通行と異なる条件を付したとしても、何ら異とするに当らないというべきである。
このことは、同法第一一条および第七七条に違反した場合の適用される罰則を比較してみても明らかなところである。(前者については同法一二一条第二号により、一万円以下の罰金又は科料であり、後者については、同法一一九条第一三号により三月以下の懲役又は三万円以下の罰金となつている。)
されば、右同法第一一条第一項と第七七条は決して両立しえない(申立人主張によれば真向から背理する)規定ということはできず、両者は、集団行進がその土地の道路又は交通の状況を前提として考察した場合において一般交通に著しい影響を及ぼすようなものであるか、否かを基準として、その何れを適用すべきかどうかを律すべきものといわなければならず、本件集団示威行進は後述するように、まさに同法第七七条第一項第四号の適用されるべき場合にほかならない。
ゆえに、この点に関する申立人の主張は集団行進の実質に思いをいたさず一律に右同法第一一条第一項を適用して事を論ずる誤りを侵しているものといわざるを得ず失当たると免れない。
(2) 本件集団行進が御堂筋を通行することによる一般交通に及ぼす影響
次に申立人は本件許可条件は、御堂筋における交通状況からみて合理的根拠を有するものでなく、道路交通法第七七条第三項の条件付与の範囲を逸脱している旨主張される。
しかしながら、本件集団示威行進は、御堂筋における道路交通の実態、交通量、交通規制の状況、本件集団示威行進に伴なう道路の占有状況および一般交通に与える影響等を総合考慮した場合、まさに右法第七七条第一項第四号、大阪府道路交通規則第一五条第三号の適用をうくべきものといわねばならず、従つて本件許可条件は決して申立人主張のような誹りをうくべき筋合のものではないのである。
すなわち、
① 御堂筋の交通の実態
(ア) 御堂筋は、国道二五号線の一部で大阪の中心部を南北に縦貫する市内の目抜き通りであり、北は大阪駅等の国、私鉄ターミナルにつながり、南は高島屋前から国道二六号線を経て和歌山に通ずる大動脈で、この道路と東西に交差する主要幹線には、国道一号、二号線、扇町線、天満川口線、本町左専道線、九条今里線、大阪枚岡奈良線などがあり何れも交通量は極めて多い。
(イ) 御堂筋を中心とした大阪市の市街構造は、南北線、堺筋、松屋町筋、上本町線など南北に通ずる道路が前記主要幹線道路と交差して、碁盤の目を形成しているのであるが、このため御堂筋の交通停滞はただちに隣接交差点に波及し、これはさらに連鎖反応的に拡大波及して、交通混乱は一交差点、一路線から周辺道路へ広域化する危険性を常に内包している。
(ウ) そして、御堂筋のうち、本件集団示威行進予定区間(本町四丁目交差点から難波西口交差点)は、全長2.05キロメートル、幅員約四四メートルの歩車道の区別のある完全舗装道路で、その西側端の本町四丁目交差点より道頓堀南詰の間は、幅員5.5メートル、同地より難波西口交差点までの間は幅員5.25メートルの歩道が設けられている。歩車道の境界には鉄製の安全さくがほぼ全線にわたつて設けられ、また歩道には、安全さくに接して銀杏樹がほぼ全線にわたつて点在している。このため、銀杏樹のある歩道の幅員は4.5メートルないし4.75メートルとなつている。
車道は、歩道内側端かつ約5.5メートルの地点にある分離帯いわゆるグリーンベルト(その幅員は本町四丁目交差点より道頓堀橋南詰の間において4.65メートル、同地より新歌舞伎座南端詰の間において2.75メートル)によつて二分され、歩道とグリーンベルトの間を通常緩行車道と呼び、他の一方を疾行車道と呼んでいる。(御堂筋における路面構造断面図は別表第一のとおりである。)
なお、この道路に対しては、道路交通法(昭和三五年法律第一〇五号)第二〇条第一項による「車両の交通の円滑を図るための道路交通法施行令(昭和三五年政令第二九〇号)第一〇条の基準により」大阪府公安委員会が定めた昭和三五年大阪府公安委員会告示第一〇号別表第六によつて車両の通行帯が設定されている。
これによると、右別表第一にいわゆる緩行車道を第一通行帯とし、疾行車道を二分してグリーンベルトよりを第二通行帯、他の一帯を第三通行帯とし、これらの通行帯の車両の通行区分として第一通行帯は、路線バス、自動二輪車、軽自動車、小型特殊自動車、原動機付自転車および軽車両を、第二通行帯は路線バス、自動二輪車、軽自動車、小型特殊自動車を除く自動車を、第三通行帯は普通自動車を、それぞれ通行すべき車両として指定している。
また、この道路における自動車の最高速度は、道路交通法第二二条第二項にもとづき、大阪府公安委員会の定めた昭和三五年大阪府公安委員会告示第一〇号別表第七によつて、第二、第三通行帯を時速五〇キロ、第一通行帯を時速四〇キロと指定されている。
注一 緑地帯は、現在本町四丁目交差点南方約二〇〇メートル(南御堂北側附近)の地点で地下鉄工事のため、また戎橋交差点北側部分が近鉄乗り入れ工事のためそれぞれ撤去されている。
注二 本件許可条件対象区間である本町四丁目交差点。道頓堀橋間の歩道は、商社事務所銀行などのオフイス街で、本件集団示威行進予定時間帯の歩行者は閑散であるが道頓堀橋以南は南の繁華街を形成しており、歩道沿いには、各種業態の商店が軒を並べ通行人がかなり多いうえ、立看板等により、歩道幅員もせまくなつている。とくに新歌舞伎座南方の地下鉄難波駅への出入口西側は、2.7メートルで極端にせまい。
② 交通量
(ア) 一般交通の状況
本件許可条件の対象区間を含む、本町四丁目交差点〜難波西口交差点間の西側車道(緩行、疾行車道)の交通量は、一日平均五九、〇六一台(昭和四二年五月九日(火)実施した甲号交通量調査による)で、うち緩行車道を運行したものは、一、〇七〇〇台であり、最近の自動車保有台数の急激な増加はその運行をますます困難にしている現状である。
また、本年集団示威行進の予定されている時間帯(土曜日の一九、〇〇〜二〇、〇〇)における交通量調査実施の結果は、別表第二に示すが如く、本町四丁目交差点から道頓堀橋南詰までは、歩行者数は少く、車道通行車両数は、同南詰より難波西口交差点までの間と比較して、疾行車道はあまりかわりがないが、緩行車道は比較的に後者は多い。ただし後者区間の西側歩道の歩行者数は相当多数にのぼつている。
(イ) 路線バスの運行状況
本件許可条件対象区間を含む、本町四丁目交差点〜難波西口交差点間を北向する路線バスは、別表第三のとおり八系統一日平均七四五台運行されており、本件集団示威行進実施予定時間帯の運行車両は、平均五一台である。
この区間におけるバス停留所は、新歌舞伎座前の難波停留所等六個所で、地下鉄とともに、御堂筋における重要な市民の足として利用されているが、最近マイカー族の乗り入れなどで車両が急増し、その運行が困難な状態となつたため、大阪府警察本部交通部では、「バス運行の公共性にかんがみ、昨年一二月一〇日から御堂筋における路線バスの正常運行確保のため、緩行車道バス停留所附近に「バス優先」の標示を行ない、立看板等と併せ一般運転者にバスの正常運行に対する協力方呼びかけを行なうなど、その対策に積極的に取り組んでいる現状である。
③ 交通規制の状況
(ア) 大阪市内の交通事情は、車両の急激な増加に伴なつて逐年悪化の一途をたどつているが、このため御堂筋についてもほとんど全線にわたつて別表第四のとおり大幅な交通規制を実施し、とくに昭和三八年三月一日から行なわれた大型車両の乗り入れ規制については、沿道等業者の一部に「生活権に直接影響を及ぼし犠牲を強いるものだ」とする反対の声も聞かれ、当時大きな社会問題としてマスコミにより報道された。しかし御堂筋の交通の実態およびこの道路が果す役割等から「規制も止むを得ない」として関係者の理解と市民の協力により実施に至つたもので、関係者はこの規制により日常相当の犠牲を受けながらも、全市民的立場から協力しているものである。
(イ) また、一般交通に著しい影響を及ぼすおそれのあるパレードは、昭和三七年初めから全面的に自粛を求める措置をとり、前記交通規制と、この種催物の自粛により、かろうじて交通マヒ状態の発生を防止して今日に至つている。
(注) 府下の自動車(原付を含む)保有台数は、本年三月末現在約一、一八六、〇〇〇台で、昭和三七年の七〇三、七五〇台を一〇〇とした増加指数は一七〇となつており、引続き増加の傾向にある。
④ 本件集団示威行進に伴なう道路占有の状況
(ア) 集団示威行進による道路の占有状況について検討すると、本件集団示威行進には「四列縦隊で、かつ約二〇〇名で一隊をつくり、各隊の間は約五〇メートルあけること」の条件(本件許可条件)を付与しているが、通常この行進隊形の一隊の大きさは、幅約2.5メートル、長さ約五〇メートルである。
これを本件申請に係る集団示威行進の参加予定人員三、五〇〇名についてみれば、隊列の長さは約一、七五〇メートルとなる。しかしながら本件集団示威行進の実参加予想は、ビラ等による街頭呼びかけ、京都府学連、兵庫県学連の取り組み状況、その他の事前情報および総指揮者佐々木宗一の許可書受領時における発言などを総合考慮すると約一万名程度が見込まれ、この場合の隊列の約さは約四、五五〇メートルに達する。
(イ) しかも今回のコースは、全長四四キロメートルで、各要点区間の距離は、おおむね集会場前から本町四丁目交差点間(本町左専道線)および本町四丁目交差点から難波西口交差点間(御堂筋)がそれぞれ2.05キロメートルで、以後解散地までは、0.3キロメートルである。
(ウ) そして、集団示威行進の速度は、従来の経験から、道路事情および一般交通の状況によりかなりの時差が認められ一率に決めることは困難であるが、本件と同一コースにより実施された、昭和四〇年一一月一三日(土曜日)夜の「日韓条約粉砕、ベトナム反戦総決起大会」後の集団示威行進の例(全線歩道)では、先頭部の平均時速は二キロメートルであり、これにより計算すれば、三、五〇〇名の場合、先頭が本町四丁目交差点に入つたときから最後尾が難波西口交差点を出るまでの所要時間は約一時間五四分、一万名の場合は約三時間十八分が必要である。
⑤ 一般交通に与える影響
(ア) 本件集団示威行進が緩行車道を行進すると仮定した場合は、先に述べたようにデモ隊の所要幅員は2.5メートルであり、緩行車道は5.5メートルであるところから人と通行車両との間に保たれるべき安全間隔(速度によるが最少約五〇センチメートル程度は必要)を考慮すると、幅員2.45メートルの大型バスはもとより、普通乗用車(幅員約1.69メートル)であつても通行は困難であり、旗、その他による行進隊列のある程度の広がりを考えると事実上車両の通行はまつたくできないこととなる。
その結果、本件集団示威行進予定時間帯のすべての北行車両が緩行車道から締め出されることとなり、すでに述べたように車種別、最高速度を異にする各種車両が、車両通行帯の設定と指定があるにもかかわらず、止むなく疾行車道上を混りあつて走行しなければならないことになり、必然的に交通秩序は乱れ、車両相互の接触、追突などの事故発生の危険性が増大するのみならず、前述した通過時間すなわち、三、五〇〇名として約一時間五〇分、一万名として三時間一八分の間、緩行車両における車両の使用不能状態が継続すると、その影響は、即座に疾行車道に及び、かつ、これと東西に交叉する前記主要幹線の車両通行が渋滞して、御堂筋を中心とする交通麻痺が拡大波及することは明白である。
なお昭和四二年中における御堂筋における事故発生状況は別表第五のとおりである。
(イ) さらに、御堂筋の集団示威行進の予定の区間は、その歩道際に本町四丁目
南久宝寺四丁目、新橋、大宝寺西之町、道頓堀橋、難波と六個所の大阪府交通局路線バスの停留所があり、難波から太子橋に至る市バスなど八系統の路線バスがこの時間帯には五一台運行されているが、緩行車道をデモ隊が行進すればこれらのバスの停留所発着ができなくなり(そのつどバスに対向して行進しているデモ隊の行進をとめてグリーンベルトの切れ目からバスを緩行車道に誘導し、次の切れ目から出すことは却つて本件集団示威行進を著しく停滞させるおそれを招来し、技術的に困難である)、この間は疾行車道に停車し、乗降客を緑地帯で乗降させなければならないことになつて、バス停車に伴なう追突の危険と利用者の不便を生じることとなる。
(ウ) 次に、本件集団示威行進参加者自身の危険性の問題としては、御堂筋は全線にわたつて、歩車道境界に鉄製安全柵が設置されており、本件集団示威行進が緩行車道を行進するに際し、万一緩行車道に暴走して来た車両があつた場合、安全柵のために容易に歩道上に回避することができないという危険があり、とくに緑地帯の切れ目または緑地帯のない地点においてはその危険性が大きい。
⑥ 本件許可条件の対象区間を御堂筋のうちの特定区間に限定した理由
御堂筋のうち、本件許可条件対象すなわち、イ、の以外の区間(申立書添付別紙(三)のうち、2・(1)・ウ、エの条件区間)につき緩行車道の行進を許容したのは右ウ、の条件区間については、いわゆる南の盛り場であつて歩道上には相当の通行人があり、店舗等も開店しており、かつ歩道幅員も、イ、の条件区間より狭く、立着板や客の立入り、店頭の混雑などがいちじるしく、しかも歩道が地下出入口等のため特に狭あいとなつている個所もみられるからである。
しかも他方、緩行車道上も右イ、の条件区間に比べて、交通量は多いが(同地点に先頭が来るのは時間的に大分おそくなり、車両の交通量はいくらか緩和されてくる)ことは予想されるこのような場所においては、通行人の安全を確保し、さらにデモ隊の安全と円滑な行進、通行車両の安全と円滑を考えた場合、緩行車道を通行させる以外に方法がないと判明したものである。
また、右エ、の条件区間については緩行車道が設置されていないため車道の右側端としたもので右ウ、の場合の理由と同様である。しかるに、イの条件区間は、歩道に沿つて立並ぶ建物が、商社、銀行等のビル街で、整然と歩道に沿つてたてられており、本件集団行進の通過する時間帯は土曜の夜の一九・〇〇〜二〇・〇〇であるから、ビル街の歩行者の通行はきわめて閑散でありしたがつて歩道の歩行者の影響は少い。これに対し緩行車道の通行車両は、なお依然として相当数にのぼつており、路線バスをはじめ車種を異にする種々様々の車両が北行し、しかも歩道、車道の間仕切りが鉄柵となつていることは記述のとおりであるため、不測の事態を回避することも容易ではない。故に、交通の安全と円滑なデモ行進とを勘案し、両側歩道を通行させる旨の条件を付した。
なお、新橋交叉点の横断について車道上を行進することとしたことは、同交さ点西詰には横断陸橋が設されているのであるが、その幅員は北階段二メートル南階段一、二メートルであつて、四列の集団威行示進が陸橋上を通行することが著しく困難となるため、やむなく車道上を横断すべきことを明示したものである。
以上のとおり相手方大阪府東警察署長が本件申立人の許可申請に対して付した道路交通法上の許可条件はこの点からみても極めて合理的なものであるといわざるをえないのである。
⑦ 最近における御堂筋の集団示威行進の状況
昭和四〇年以降御堂筋の一部を行進経路とする集団示威行進は、メーデーの行進を除き四五件である。
このうち主たるものは別表第六のとおりであるが、
(ア) 昭和四〇年一一月五日実施されたベトナム反戦・日韓条約阻止大阪実行委員会主催の集団示威行進は、大手前公園から本町二丁目、本町四丁目(御堂筋)難波西口、大阪球場前を経て府立体育館前で解散したが、御堂筋における通行区分は、
本町四丁目交差点から難波西口交差点までは西側歩道
の条件で行進が行なわれた。
(イ) 昭和四〇年一一月一一日実施された総評南大阪地評主催の集団示威行進は、三軒家公園から大正橋、桜川二丁目、湊町、戎橋(御堂筋)、難波西口を経て大阪球場前で解散したが、御堂筋における通行区分は、
戎橋交差点から難波西口交差点までは西側歩道
の条件で行進が行なわれた。
(ウ) 昭和四〇年一一月一三日実施されたベトナム反戦・日韓条約阻止大阪実行委員会主催の集団示威行進は、一一月五日実施された同団体主催の集団示威行進と同様の経路および条件で西側歩道での行進が行なわれた。
(エ) 昭和四一年四月九日実施された大阪地方同盟主催の集団示威行進は、靱公園から靱本町二丁目、本町四丁目(御堂筋)、道頓堀橋、湊町、賑橋、元町二丁目を経て府立体育館前で解散したが御堂筋における通行区分は、
本町四丁目から道頓堀橋南詰までは西側歩道
の条件で行進が行なわれた。
このように御堂筋を南下する集団示威行進については、これまでも西側歩道を行進することの条件が附され、各主催者もこれに従つてきたものである。
このように、本件集団示威行進が本件許可条件対象区間内の緩行車道を通行した場合、その一般交通に対して及ぼす影響は極めて甚大なものがあるといわざるをえないのに反し、右区間内の歩道上はビル街である関係上、その実施時間帯にはほとんど通行人もなく、かつ緩行車道同様五、五メートルの幅員をもつている状況からして、右許可条件対象区間内の全利用者の安全と円滑を図るべく、本件許可条件がもつとも適切合理的であると判断したものである。
(3) 憲法第二一条と本件許可処分の関係
申立人は、集団示威行進は憲法第三条によつて保障せられ、集団行進は、それによつてその目的に対する一般市民の共感を呼びかけることを要素とし、その点に表現の自由としての本質があるのであり、本件許可条件は市民への呼びかけが有効に行なわれえないような形態における集団行進を強いることになる旨主張される。
しかしながら、本件取消訴訟の対象となつているイ、の条件区間の歩道を通行させることとしたがために、果して申立にかかる本件集団行進の形態を歪め、その機能を失わしめることとなるであろうか。
けだし、本件許可条件を付した区間の歩道は、有効幅員が約五メートルである(歩道にはおおむね全線に亘つて安全柵が設置されているので、その部分を除いても4.5メートルないし5メートルはある)。そして、四列縦隊の隊列の幅を約2.5メートルとみた場合、なお歩道のうち約2.5メートルの幅員は一般市民が自由に通行し得るものとして残存している(この点、前記ウ、の条件区間は必ずしも一般市民が自由に通行できるとはいいにくい)。しかも本件集団示威行進が該当区間を通行するのは、来る六月一五日の午後七時以降八時前後となる筈であり、申立人において初夏の土曜日の午後七時前後の該当区間の交通量の具体的実数を把握するため、去る六月一日および八日(何れも土曜日)の午後七時頃調査した疎乙第二号証によれば、一分間の歩行者数の平均は、
本町四丁目交差点 8.53人、または
6.66人、
新橋交差点 2.66人、または
7.10人、
難波西口交差点 20.66人、または
2.546人、
である。
加うるに歩行者の一分間に歩く行程を約三三メートル(時速二キロメートル)とすれば、三三メートルの間に前記の人数が歩行していることになるのであるから、2.5メートル幅の四列縦隊が行進しても、なお残存する2.5メートル幅の歩道に前記の人数の一般市民はなお自由に通行する余地が十分にあるのであつて、本件許可条件によつて一般市民を歩道から、申立人がかかる具体的な実情を知ることなく、ただ単に、一般市民を歩道から完全に締め出すという抽象的な論拠に立つての攻撃はあたらないのである。
なお、該当区間は、前述したように沿道ほとんどビルが林立し、全くのオフイス街であつて、初夏の土曜日の午後ともなれば、歩行者は極めて少数となるのである。
しかもそのうえ、この区間は、歩道と緩行車道とが全線に亘つて併行しかつ直線的に南北に通じているのであるから表現上の効果という観点からみても、歩道を通行したがために、その効果がうしなわれるという如きことは全くない。されば、本件許可条件によつて表現の自由を侵害したとの主張は全く理由がないものといわざるをえない。
かえつて、申立人の希望どおり本件集団示威行進を緩行車道を行進させるとすれば、約5.5メートル幅員の緩行歩道を2.5メートル幅の四列縦隊で行進することととなり、余すところわずかに三メートルで、車両が通行する余裕は全然ないのであるから、その一般交通に及ぼす影響についてはすでに本項(2)において詳述したとおり誠に甚大なるものがある。またすでに述べたように三、五〇〇人の集団の隊列全長は、約一、七五〇メートルであるから、その隊列の先頭が御堂筋の難波西口にかかつてから、後尾が本町四丁目をはなれるまでの所要時間約二時間の長きあいだこの区間の緩行車道のみの南北の交通を完全に遮断するのみならず、これと交差する東西の交通をもまた不能ならしめ、さらにはすでに述べたように本来緩行車道を走行すべき車両が、疾行車道に流れ込み速力の相違する車両が密集して走る等、一般交通をマヒさせるのみでなく、交通戦争の時節下、平常の事態においても別表第五に表示するような交通事故のある当該区間において、かかる状態を予想しながら敢えてそれを実現すれば、一般市民を交通事故の危険にさらすのみでなく、集団行進する隊員自身をも交通禍の危険にさらすものであつて正に害あつて益なきものといわねばならない。
果して、然らば本件許可条件が申立人の意思に反するものであるとしても本件集団示威行進表現の効果に対してはいささかもかわるところなく、しかも公共の福祉の点で著しく利するところがあるのであつて、これこそ妥当適切な許可条件といわねばならない。
むしろ、申立人がいう集団示威行進は車道を通行するのが常識であるとか、正当な示威要素は、車道の通行によつて保障されるとか、デモ参加者の常識としてデモは車道を行進すべきものという意識こそ従前の同種類似のデモの前記実例にてらしても、全く独自の見解というのほかはない。
四 執行停止の緊急の必要性がない。
本件許可処分はすでに述べたように本件集団示威行進を許さないことを内容とするものではないばかりでなく、その経路を変更するものでもなく、却つて一般交通の安全の維持のみならず、本件集団示威行進参加者に生じうべき交通上の危険の防止さえ配慮するものであり、本件許可処分に従つて行進することにより、その目的を達するについて格別の支障があるとは到底認められないのである。
従つて申立人に本件許可処分のうち本件許可条件の効力の停止を求むべき何らの緊急の必要性は存在しないものといわざるをえない。
五 結語
以上のとおり本件許可条件は、御堂筋とその周辺地区における一般道路交通の安全維持と危険防止という重大なる公共の福祉保持のための必要最少限の措置というべきであり、これによつて申立人の意意に反する制約を課することとなつたとしても、そのことをもつて本件許可処分が違法視される理由は何ら存在しないものといわざるをえない。
よつて本件申立はすみやかに却下されるべきものである確信する次第である。
疎明方法<省略>